ケン・マクラウド「人類戦線」

−−1963年の春、ぼくはスターリンが殺された日のことを覚えている……
第二次世界大戦に続いて第三次世界大戦が勃発し、米英仏に加えて日本そしてドイツ第四帝国が、共産主義者たちと果てしない戦いを続け、全体主義色が強まった「戦中」のUKを舞台に、医師の父を持つ主人公が全体主義に反発し人類戦線に身を投じるとともに、幼き日に父と見た謎の爆撃機とその異形のパイロットの謎を追う姿を、重厚に描いたUK SF「らしさ」溢れる作品……というだけでは本作の面白さを十全に示したものにはならないだろう。この理由はご自分で読んで確かめて欲しいところ(こういうところも含めてUK SFらしい)。
 現時点で今年度三位の短編*1イデオロギーのぶつかり合いを描いたという点に単純に反発を覚える向きもありましょうが、政治を含めて全てを描こうとする姿勢こそが私はSFならではと主張したいところ。+2

なお、著者のケン・マクラウドはこのようなイデオロギーのぶつかり合いを題材としたニュー・スペースオペラで近年人気を博している作家。ちなみに本人は雑誌 Albedo One のインタビューにて自らのことを「大義あるリバータリアン」と位置づけている。

初出はPS Publishingのノヴェラ単行本。Gollanczから出版された同ノヴェラ単行本再録本にも収録された。

*1:一位はゲイマン「エメラルド色の習作」、二位はマーティン「禍つ星」