田中哲弥『ミッションスクール』

異才田中哲弥7年ぶりの新刊は学園を舞台にした連作短篇集。連作といっても『やみなべの陰謀』ほど緊密につながっておらず、ミッション系の学園であることがほぼ唯一の共通点。で、各話について。

第一話「ミッションスクール」

下痢のため一刻も早く排便したいのですなどと十七歳の女子高生が人前で言うはずがないのだ。

 こんな書き出しではじまる本篇。クラスの美少女がそういう風にトイレへ向かったそのとき、国連事務総長直下の秘密組織のエージェントとしてイラク特殊部隊と闘うため学園に潜入していた主人公はその後を追っていった。彼女もまたCIAのエージェントだったのだ。本連作の中では比較的普通のコメディ作品。

第二話「ポルターガイスト
 食堂へ向かう主人公の目の前を歩いていた八木千秋がいきなり大音声で「あたしさっき生理はじまっちゃった」と叫ぶとともに、ガラスが砕け散りスプリンクラーは壊れ、生徒が三人死んだ。
 これはトイレの呪いで己の恥と思うものを無意識に言ってしまうとともに、衝撃波が発生するという現象が起こったようだった。
 あほとしか言いようのない展開が続き、明確なオチも存在しないなど不条理そのものの怪作。本書の中では個人的ベスト。

第三話「ステーショナリー・クエスト」
 美術部の備品が切れてしまった!部員の秋野が同級生などに気前よく分け与えてしまったからだった。部長は錯乱する。なぜなら、裕福なのに予算管理はやたらと厳しいこの学園では以前、追加予算を申請しに総務部へ向かったある部の部長は半年後バラバラ死体となって見つかったからだから。とはいえ部活動を続けるためには備品が必要。ということで彼女たち美術部のメンバーは総務部へ向かう。それが悪夢の始まりとなったのだ……
 田中哲弥版『脱走と追跡のサンバ』。ここまでが『電撃hp』掲載分なのだが、田中哲弥文体はだいぶ抑えめ。悪夢的展開のシュールさは素晴らしいものだが、本作品集の中では一つ落ちるか。

第四話「フォクシーガール」
 SFM掲載。あほ展開ではあるけど、割と普通のスーパーヒロインパロディーものである。普通に楽しく読める。

第五話「スクーリング・インフェルノ
 贅を尽くした講堂で入学式をしていると学園が沈没を始めた!地底へ落ちた主人公は、怪力お嬢様女子高生と出会ったことで悪夢のような状況へ巻き込まれることになる。
 これは本作品集の中で一番田中哲弥文体が炸裂し、シュールな(ホラー的)光景が描かれた作品。作品のそのものの出来自体ではベストかな。ホセ・ドノソもびっくり。

全体的には、これまでのライトノベルレーベルから出た作品と比較すると、エンターテイメント色はやや後退し、不条理色が強まっている。今年のベストでは2位〜5位クラス。別格にしてもいいかも

ミッションスクール (ハヤカワ文庫JA)

ミッションスクール (ハヤカワ文庫JA)

やみなべの陰謀 (ハヤカワ文庫JA)

やみなべの陰謀 (ハヤカワ文庫JA)